「年間約90万件」,「100億円」
これらは,何の数字だと思われますか。
答えは,前者は,詐欺や悪質商法に関する消費生活相談の相談件数で,後者は,平成22年度の振り込め詐欺の被害額です(平成23年2月政府広報)。
依然として後を絶たない詐欺や悪質商法ですが,残念ながら,警察に相談してもすぐには捜査に着手してくれませんし,被害届を受理することすらしてくれない場合も多いです。警察の仕事に被害金の回収は含まれないことから,自治体の消費者生活相談センターのようなところや,法テラスに電話をかけて弁護士や司法書士に相談しなさいなどといったアドバイスをもらうことが多いようです。
他方で,大きな失敗をした後ろめたさや恥ずかしさ,家族から責められたり馬鹿にされたりするかもしれないと思う恐怖から,自分が詐欺に遭った事実をかたくなに否定される方,現実回避のために自ら思考停止する方がおられます。
しかし,私としては,詐欺に遭ったと感じたら,まずは最寄りの弁護士にすぐに相談していただきたいですね。この第一歩が肝心です。
なぜかというと,弁護士には「口座凍結」という協力な武器があるからです。
弁護士は,「詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって,財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたもの」と認める場合は,その利用された預金口座等を,犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(通称「振り込め詐欺被害者救済法」)3条1項に基づき,凍結要請することができます。この凍結要請は日弁連所定の書式を利用してFAXで行えますから,通常の民事保全と比較して,きわめて迅速かつ簡易です。全国銀行協会に加盟している金融機関は,被害者代理人弁護士が預金口座等の凍結等の措置を求めてきた場合は直ちに当該口座の凍結等の措置を講じます。被害者代理人弁護士において,口座凍結の要請をFAXで送信してしばらくした後に金融機関に電話をかけ,凍結された預貯金額を聞けば,担当者はすぐに金額を教えてくれますので,被害者代理人弁護士は,凍結した額いかんによって回収に向けた作戦をいろいろと練ることができます。
私が最近,口座凍結の要請をしたのは,競馬情報にかかる詐欺事案です。「絶対に的中する」という勝ち馬の情報と引き換えに高額な情報提供料を振込送金してしまったという事案でしたが,被害額(振り込み額)は約170万円でした。この種の悪質業者はすぐにドロンするので,スピード回収が大切です。それで,受任直後,被害者が振込送金した業者名義の口座二つを凍結要請しましたが,うち1口座はすでに別の弁護士により口座凍結されその時点では解約済みであり,残りの1口座はまだ生きている口座でしたので凍結してもらうことができました。ただ,凍結できた額を聞くと,10万円ちょっとということでした。凍結額の少なさに多少がっかりしましたが気を取り直して,早期解決を目標に短期集中で業者と交渉しました。結果は,受任日から10日目で120万円を回収しました。ほんとは満額回収したうえで,さらに慰謝料請求もしてやろうと思っていたのですが,この事案ではそれが難しい事情があり,上記120万円で致し方なしとしました。
スピード回収のための口座凍結。これを行えるのは弁護士です。被害に遭われた方は,できるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。
(中西)