お年寄りの方が遭う「事故」といえば,交通事故をイメージされる方が多いと思いますが,介護事故も見逃すことはできません。介護施設内の転倒・転落事故,送迎中の車イス等からの転落事故,誤嚥事故などは,意外に多く耳にします。
こうした介護事故に遭ったときに,本人又は家族が,弁護士等法律家に対応を相談するケースは少ないようです。なぜでしょうか。「○○施設の△△さんには,いつもお世話になっているから。」とか,「弁護士に相談して,損害賠償を請求すると,○○施設には居られなくなる。」,「ここを出たら,行く当てがない。」などという遠慮や懸念が大半と言われています。しかしながら,本人が死亡したり重大な後遺障害が残ったり,あるいは,施設側の対応が著しく不誠実であったりすると,さすがに本人や家族も納得できず,弁護士等に相談してこられます。
介護事故の場合,利用者と介護事業者(介護施設)との間で,介護サービス提供契約を締結していますから,事業者には,契約に盛り込まれた介護サービスについて適切なサービスを提供する義務があり,これを果たさなかったことについて過失がある場合,その事故により起きた損害について賠償責任(債務不履行責任・不法行為責任)が発生します。
利用者や家族からすれば,介護のエキスパートから適切な介護サービスを受けるために,決して安くない利用料を支払っていたのですから,適切な介護サービスを受けられずに事故に遭い,損害を受けた場合,その回復を図るのはきわめて当然のことであり,何ら遠慮することはありません。損害賠償を請求したからといって,そのことを理由に退所を迫られたり,サービス提供を拒否されることもありません。もし介護事業者がそのようなことをしたら,そのこと自体が慰謝料請求の根拠となることでしょう。
弁護士が相談を受けて,介護事業者や介護職員(介護事業者の契約履行補助者)の介護サービスに過失があると一応判断した場合,まずは,事業者に対し,事故に至る経緯や原因,受傷状況等について説明を求めるなどして,事実関係の調査をするのが通常です。それと並行して,事業者の過失の有無,程度,事故と受傷との因果関係等にかかわる証拠収集をし,そのうえで,当該紛争を解決するにあたって,示談交渉,調停,訴訟のどれがベストかの選択をしていきます。この選択は,本人や家族の意向に影響されるところであり,事案によって異なると思います。いずれにせよ,介護事故に遭ったら,まずは弁護士に相談した上で対処していくのが賢明と考えます。
(中西)