交通事故~車の評価損~

交通事故で自動車に損傷が生じた場合,修理費や代車料などのいくつかの費目の損害が生じますが,よく問題になるのが,「評価損」,つまり中古車として売るときに,事故車扱いになって値段が下がるから,その差額を損害として認めて欲しい,というものです。

一般的な感覚としては,値下がりが予想される額全額を損害として認めるべきという考えがすっきりするのですが,裁判実務ではなかなか認めません。新車で購入して数ヶ月しか経っておらず走行距離もあまり多くない車だけ,しかも「修理代金の20~30%」というよく分からない基準で認められるのがせいぜいのようです。修理すれば車の価値は回復するそうです。かなり絶望的ですね。

さらに問題はローン中の車。新車に近い車ですと,ローン中ということも多いと思います。

この場合,裁判例では,「評価損は、車両の交換価値の低下であり、車両の所有者に生じるものであるところ、前認定のとおり、(被害者)は、本件事故当時、被害車両の所有者ではないし、その後代金が完済されたと認めるに足りる証拠もないから、被害車両に評価損が生じているか否かを検討するまでもなく、(被害者)が評価損を請求することはできない。」(東京地裁平成15年3月12日判決)と述べて,ローン中で所有権者がローン会社になっている場合には,車の購入者(車検証では使用者欄に名前が記載されているだけの人)は評価損を請求できない,と判断しています。

これは極めて形式的な理屈(評価損は交換価値の低下→所有権留保権者が交換価値を把握→車の実質的所有者は評価損を請求できない!)で,私個人としては納得しがたいのですが,裁判所はこれで動いています。しかしいったい,どこのローン会社が被害者と一緒になって評価損の請求をしてくれるというのでしょうか。

交通事故に遭った場合は思い通りに損害賠償が認められず,納得のいく賠償が得られたと感じることは難しいです。とにかく,加害者にも被害者にもならないように交通事故にはお気を付け下さい。

(榎本)